オフコン用のOS A−VXの概要
- 1 オフコンの画面
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まず、NECのオフコン用のOS、A−VXがどのようなものなのか簡単に説明してみます。それぞれの項目は後でもう少し詳しく説明しています。
Windowsを始めとして最近主流のOSは、GUIといって画面の中にカラフルな図形が表示されて、マウスでクリックして操作するようなものになっています。それに比べるとA−VXは文字が主で、せいぜい文字に色(8色!)が付けられるぐらいです。おまけに1つの画面に文字が最大で縦25文字横80文字の計2000文字分しか表示できません!
2000年頃に一応マウスも使えるようにはなりましたが、たいていはアプリケーションがマウス対応していないので、マウスも使えないといって良いでしょう。
下の写真はA−VXの一番素の画面です。ここからRUNコマンドというものを入力してアプリケーションを実行したりします。
基本的には、A−VXはメニューと呼ばれる画面から、実行したい業務をキーボードからのキー入力で選択して、目的の業務のアプリケーションソフトウェアを実行することになります。
そのアプリケーションも基本的には、キーボードからのキー入力で操作していくことになります。
下の画面はA−VX付属のメニュー作成用のユーティリティで作れる一番原始的なメニュー画面です。説明用に今2,3分で作りました。
説明したようにA−VXの素の画面はCUIですが、一応GUIっぽい画面(新HI画面と呼ばれます)も用意されています。
Linuxのシェルコマンドを入力する画面がA−VXのRUNコマンド画面に対応すると考えると、これはGNOMEやKDEに対応する形です(比較するにはあまりにも貧弱ですが・・・)。
A−VXとLinuxのUI対比 A−VX Linux CUI(CLI) RUNコマンド画面 シェルの画面 GUI(っぽいもの含む) 新HI画面 GNOME、KDE こういった画面を見るとマウスで操作するんだろうな、と思われるかもしれません。たしかにマウスで操作できるところもあります。
上に表示されている3つの画面のうち一番上はマウスで操作できます。でも徐々にクリックしたりして細かな操作の選択に進んでいくとマウスが使えず、キーボード操作しかできなくなっていきます。一番下の画面は全部キーボードの矢印キーやショートカットキーでしか操作できません。メニュー画面の開発途中で力尽きたのかな?という感じです。
(ちなみに1990年代まで存在していたクライアントタイプのオフコンについていた専用マウスでは全部マウス操作できるという話があります。もしかして専用マウスからパソコン用の一般的なマウスで使えるように変更したときに途中で力尽きたのか??) - 2 メニュー中心思想
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A−VXの前身のOSの名前はITOS(Interactive Tutorial Operation System)という名前でした。A−VXもその名の通り、オフコン側が選択肢の一覧を示して「どれにしますか?」と聞いてきて、人間がそのどれかを選ぶとまたオフコン側が次の質問をしてくる・・というようにオフコンと対話しながら作業を進めるというような設計思想になっています。
最初に説明したRUNコマンドだけの殺風景な画面はあくまでも保守用の画面で、普段はサーバに接続するとその業務用のメニューがまず表示されるというのがNECが推奨しているシステムの形です。
上で説明したGUIっぽい画面(新HI画面)も全体がメニューで構成されています。オフコンの主なユーザは会社・企業、店舗の事務職です。コンピュータに詳しくない人が前提となります。オフコンが誕生した1970年、1980年頃といえば黒い画面にいきなりコマンド入力ということが多いです。それでは敷居が高い。そこでNECのオフコンではだれでも操作できるように、すべての選択肢をメニューにして、そこから選んでもらうという形にすればよいという形にしたのでしょう。それが初期のOS名であるITOSに表れています。
つまり全部を常にメニューという形で表示して、その選択肢の中からユーザが選びながら操作するというのがA−VXの特徴です。
2010年に発売されたNECのオフコンからWindows側にもメニューが用意されました。(なぜかWindows側なのにA−VXメニューという名称)
それまではメニューはA−VX内だけでしたが、その設計思想がWindows側にも拡がったということです。NECのオフコンのWindows側に用意されたユーティリティが最初から登録され、さらに自分でアプリケーションをメニューに登録できるようになっています。
将来的にはA−VX側とWindows側のアプリケーションを1つのメニューで統一操作、統合していこうという気配も感じさせました。が2015年にNECのオフコンは販売終了になったのでそこまででした。 - 3 オフコン用のアプリケーション
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A−VX用に作ったアプリケーションは、Windows上では動きません。もしA−VX用に作ったものをWindows上で動かしたいならば、作り直すことが必要になります。ここらへんはLinux用に作ったアプリケーションをWindows上で動かしたいならば、Windows用に作り直さないといけないということと同じです。(最近はLinux用に作ったアプリがWindows上で動いたりするので、なかなか説明が難しくなってきました・・・)
Windows用に作ったアプリケーションは、当然ながらA−VX上では動きません。
その代わりA−VXは20年前、30年前に作ったアプリケーションも動かすことができます。A−VXの前のITOSの時代のアプリケーションも作り直したり、リビルドしたりしなくても、そのまま動かすことができます。ここはWindowsなどの最近のOSと違う点です。
オフコンが発売された当時は、市販のパッケージソフトがほとんどなかったこともあって、各社がそれぞれ自分の会社用のプログラムを作成することが多かったようです。
その後、一時期NECのオフコン上で動く市販パッケージソフトウェアがいろいろな会社からたくさん発売されていたこともあります。
2000年代以降はそれらの市販パッケージソフトウェアが次々と販売終了になっていき、もうNECのオフコンも終わりかなと感じさせたものです。結局市販パッケージソフトウェアではなく、自社パッケージを自分で作って使用していた会社が主流のようでした。
- 4 オフコン用のプログラム言語
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Windowsなどでは、JavaやC言語を使って自分でプログラムを作ったりできますが、NECのオフコンの場合は、主なプログラム言語はCOBOLとSMARTになります。
COBOLは有名な言語なので、特に説明も要しないでしょう。SMARTというのはNEC独自の簡易言語みたいなものです。
オフコン全盛期であった1980年頃はCOBOL全盛期でした。またその頃はプログラマー不足が叫ばれていたので、ノンプログラミングで誰でも使えるという触れ込みの簡易言語が各社いろいろと発表されていました。NECのオフコン用の簡易言語がSMARTというものです。
ちなみにごく初期、1970年代から1980年代はC言語やFORTRANやBASICや、その他いくつかのプログラミング言語、またNEC独自で開発されたいくつかのプログラミング言語が発売されて使えたようです。要するにNECのオフコンでは、みんながCOBOLを使うので、他の言語は廃れてしまったようです。
- 5 マルチタスク・マルチジョブ
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A−VXもWindowsと同じように同時に複数のアプリケーションを実行できます(マルチタスク・マルチジョブ)。最近のOSならあたり前の話ですね。
Windowsだと、複数のアプリケーションの複数の画面(Window)を並べたり、重ねたりできますが、A−VXは残念ながら横に並べたりすることができません。Windowsでいうと全部のプログラムが全画面表示されているような感じです。
1つのアプリケーションの画面の後ろに残りのアプリケーションの画面が隠れていて、「画面接続」コマンドを使うと後ろの画面が前に出てくるような仕組みです。
まあこれは古い時代に設計されたOSの限界ってところですかね。
- 6 A−VXとWindows
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かなり昔、昭和のころのNECのオフコンはA−VXというOSしか載っていませんでした。1990年代後半以降のNECのオフコンはA−VXとWindowsの両方が載っている形になります。正確にはA−VXはWindows上の仮想OSとして動いています。
昔はA−VX上で何でも動かそうという思想だったようですが、今はWindowsが得意なことはWindowsに任せて、A−VXはA−VXが得意なことをやろう、という考えのようです。
またオフコン全盛期の話をしますが、その頃はNECのオフコンで動くワープロソフトや表計算ソフトがありました。例えば表計算ソフトやグラフ描画ソフトでは1120×780ドット、フルカラーでグラフなどが書けましたし、ワープロは日本製のソフトらしく罫線作成操作に定評がありました。でもパソコンの同種類のソフトウェアの急速な機能向上にはかなわず最終的には消えました。2000年以降のNECのオフコンの新機能を見ると、情報系の処理や何かをグラフィカルに表示するとか、そういうのはWindows側に任せて、A−VXは基幹系の処理に専念しよう、ということのように見えます。
実際、Windows側のWebサーバ(アパッチとか)で受けた問い合わせをA−VX側のアプリケーションやデータベースで処理して返す、とか、A−VX側のアプリケーションで出力したデータをWindows側のエクセルで受け取って集計してグラフ化する、のような使い方がされているようです。
せっかく2つのOSが載っているのだから、それぞれ得意な処理に特化しようというのはいい考えだと思います。
- 7 ユニファイド・コンポーネント・プラグイン・システム
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Windowsやインターネットなどの最新技術をA−VX上のアプリケーションから有効に活用するためのシステムをユニファイド・コンポーネント・プラグイン・システム(UPCS)といいます。そしてこの仕組みのことをユニファイド・コンポーネント・プラグイン・アーキテクチャ(UCPA)といいます。
従来から使用しているA−VXの業務アプリケーションにコンポーネントを組み込むことによって簡単に機能拡張できるようになるというものです。
2000年前後にこのアーキテクチャを利用していろいろな機能が提供されました。このアーキテクチャを利用しているものとしてMail連携/Web連携やFax連携などがあげられます。
- 8 サーバ用のオフコンとA−VX
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かなり昔の話になりますがオフコン全盛期には、NECのオフコンはサーバとクライアントがありました。A−VXもサーバ向けとクライアント向けがありました。今のWindowsと同じですね。
1990年代後半以降はクライアントはパソコンがあるので要らないよね、ということなのか、サーバ向けのオフコン、A−VXしかありません。
A−VXの使い方はLinuxとかとよく似ていて、PC/WSエミュレータと呼ばれるA−VX専用のターミナルソフト/端末エミュレータを使ってサーバに接続して、アプリケーションを実行したり、ファイルをメンテしたりする、ということになります。
Linuxにも接続するためのターミナルソフト(TeraTerm、RLogin、PuTTYとかいろいろ)がありますが、それではA−VXには接続できません。 NECのオフコンは専用とか独自が好きなのか、ターミナルソフトも専用だし、Windows上でA−VXを動かす仮想環境も独自のものをわざわざ作っています。NECのふつうのWindowsサーバはExpress5800/100シリーズですが、オフコン用はわざわざExpress5800/600シリーズとシリーズが分けられています。オフコン用に何かカスタマイズしているようで、実際Express5800/100シリーズではA−VXは動かないようです。基本NECのオフコンは専用のものしかなくて、汎用品が使えればラッキーぐらいな認識でいましょう。
- 9 A−VX/RDB
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A−VXには専用のRDBMSが載っています。A−VX/RDBと呼ばれています。
感覚的にはWindowsを買ったらSQL Serverも付いていたというような感じでしょうか。
最低限の機能しか持たないRDBですが、NECのオフコンとして特化された面白い機能がたくさんあります。